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かつて予備校の講師は学生の石膏デッサンを見てこう言ったものだ。「裏側が描けていない。」

エッセイストの南伸坊氏にもこの経験があったらしく、一筋縄では行かない人だから、脇に石膏像の後頭部を描いたそうである。ようするに反射光を含んだ陰影法の未熟を指摘すれば良いのに、このもってまわった言い方にカチンと来たらしい。

さて、これらは今を遡ること半世紀近くも前のことだが、数年前にこの美術系予備校講師定番の原典を見つけた。坂本繁二郎である。話したのが彼で小説に残したのは志賀直哉だ。青木繁とか岸田劉生とか若くして名を成し逝った画家は裏側が描けていない。

そう、本当の意味は技術の問題ではない。思えば講師達も未熟だった。人間を見る人生を思う芸術の本質のことである。志賀直哉も自分の若い頃の作品を見直すとそこがまだ書けていないと言う。しかし、世の評価が必ずしも晩年の作の方を取る分けではないことも彼自身は知っていた。

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