須磨
源氏物語シリーズ「須磨」油絵 SM
The Tale of Genji series “Suma ” oil painting 158×227mm
いとつれづれなるに、大殿の三位中将は、今は宰相になりて、人柄のいとよければ、時世のおぼえ重くてものしたまへど、世の中あはれにあぢきなく、ものの折ごとに恋しくおぼえたまへば、「ことの聞こえありて罪に当たるともいかがはせむ」と思しなして、にはかに参うでたまふ。うち見るより、めづらしううれしきにも、ひとつ涙ぞこぼれける。
源氏物語 帖「須磨」
源氏が日を暮らし侘びているころ、須磨の謫居へ左大臣家の三位中将が訪ねて来た。現在は参議になっていて、名門の公子でりっぱな人物であるから世間から信頼されていることも格別なのであるが、その人自身は今の社会の空気が気に入らないで、何かのおりごとに源氏が恋しくなるあまりに、そのことで罰を受けても自分は悔やまないと決心してにわかに源氏と逢うために京を出て来たのである。親しい友人であって、しかも長く相見る時を得なかった二人はたまたま得た会合の最初にまず泣いた。
与謝野晶子
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