文様と技法
長谷川資朗作品の特徴
主役は文様
文様はただの飾りではなく意味を持っています。お祝いだったり魔除けだったり。そして、さらに言葉のように組み合わせや繰り返しで意味が広がります。文様の形と色と意味、その構成で絵を創ることができるのです。万葉集の歌を、源氏物語を文様が描きます。
喩えで現す
とても美しいと思った人をそのまま描いても、他の人に取ってはチョット美しいだけかも知れません。でも、美しい人として桜を描けば、それを見た人の想像のなかで最高に美しい人が浮かびます。万葉集シリーズで人の姿は絶景、源氏物語シリーズの花は美女です。
油絵具と日本の素材
油絵は西欧の絵画です。それは西欧の宗教や伝統と深く結びついています。しかし、そこで生まれた油絵具は永い年月の中で改良され様々なことのできる大変便利な画材となりました。この優れた絵具を西欧絵画ではなく日本の絵画で使います。そして、日本の絵画や工芸の素材である金粉や青貝、胡粉・雲母も、この油絵具と一緒に使われています。これは、油絵具で描かれた日本の絵画です。
古典から現代へ
万葉集や源氏物語は絵の出発点です。でも、これらの絵を見るのに古典文学の知識が特に必要な分けではありません。人の心を写す文様や喩えは、それを見る人の想像の中で新しい意味を獲得するのです。古典文学から生まれた絵が鑑賞によってあなたの物語を創るのです。
文様による比喩的表現の実例 源氏物語シリーズ「幻」
光源氏を表す①文様(蜀江文様)と、その妻紫の上を表す②文様(文入り鱗文様)が、夫婦の寄り添う姿となっています。白地と黒地の背景地紋となっている③文様(卍繋ぎ)は、ふたりの来世、仏教の象徴です。画面右下の④源氏香(香を嗅ぎ分ける遊びで使われる記号)は、54帖(巻)からなる源氏物語の各巻を表しています。これ④は「幻」の帖を示します。⑤桜は花に喩えた紫の上です。この絵では、二人で交わされた手紙(中央の黒い形)を、亡くなった紫の上を偲びながら源氏が燃やし、その煙が昇って行く様子が表現されています。
光を受けて変化する画面
背景は白い反射する画材雲母で塗られ、地紋(花車)はマットな胡粉を含む白で描かれています。従って、光の方向で背景と地紋が反転したり、白の上の白で地紋が消えたりします。
髪は厚塗りにした油絵具の筆跡が光ることで表現されています。髪飾りは金と青貝による日本伝統の螺鈿です。